~人質となる「研究開発税制」~
2008 / 4 / 17
3月31日にガソリンにかかる暫定税率が廃止になりました。その時に一番心配したのは、ガソリンの暫定税が含まれている租税特別措置法に、一緒に書かれている他の減税措置が同時に止まってしまうことでした。
特に産業界への影響が大きいと考えられるのは、石油化学業界のナフサ原料への減税措置です。この減税は、他国では「特別措置」ではなく「恒久措置」として行われており、これがなくなると日本の石油化学業界は外国企業との対等な競争が難しくなります。減税規模は石油化学業界の利益の約半分に相当するほど、大きな額なのです。
最終的には、ガソリンにかかる暫定税率など道路関係を除く税制「租税特別措置」の期限を5月末まで2カ月延長する「租税特別措置つなぎ法」が成立しました。これで、金融機関が海外から資金調達して海外で運用するオフショア市場の利子非課税、石油化学の原料であるナフサの減税措置、土地売買時の所有権登記にかかわる登録免許税軽減などの7項目や、50万円以下の中古車などを購入する際の免税措置(改正地方税法)などが継続されることになりました。
これで安心するのは早かったのです。なんと、つなぎ法案でも「つながれなかった」租税特別措置が数多くあったのです。これら、つながれなかった税制については、2008年末までに租税特別措置法が成立すれば減税措置を受けることができます。そのため、とりあえず「つなぎ法」には入れなかったのでしょう。しかし見方を変えれば、「租税特別措置法を成立させるための人質として、重要な減税措置をつながないで残した」と考えることもできなくはありません。
すでに企業では、「場合によっては減税措置が成立しない可能性もある」との憶測から、経理部門がさまざまな投資を見合わせている例もあると聞きます。実際のところ、山口2区の補欠選挙の結果次第では、そして、与党がガソリン暫定税制や道路特定財源関連法を衆議院で三分の二の賛成で再議決をした場合には、与党も野党も身動きがとれなくなり、つながれなかった租税特別措置がそのままで放置される可能性がありうる、と私は見ています。
具体的にどのような税制が抜けているのでしょう? つながれなかった租税特別措置の中から主要なものを下に列記してみました。これらの税制は現在(2008年4月14日時点)では存在していないのです。
●中小企業投資促進税制の延長〔▲2,560億円(平成20年度平年度見込)〕
●中小企業向け少額減価償却資産特例の延長〔▲520億円(平成20年度平年度見込)〕
●研究開発投資促進税制の拡充〔▲520億円(平成20年度平年度見込)〕(恒久措置部分を含めると平年度▲6000億円強)
●情報基盤強化税制の延長・拡充〔▲900億円(平成20年度平年度見込)〕
●人材投資促進税制の延長・改組〔▲130億円(平成20年度平年度見込)〕
●エネルギー需給構造改革推進投資促進税制の延長・改組〔▲420億円(平成20年度平年度見込)〕
●農商工連携促進税制の創設〔▲20億円(平成20年度平年度見込)〕
●民間国外債等の利子・発行差金の課税の特例▲10億円(藤末事務初推定)〕
●エンジェル税制の抜本拡充(新規) 等
これらの中でも、私が特に重要だと考えるのは「研究開発投資促進税制」です。研究開発投資促進税制が今のまま成立しない場合、困るのはわが国の企業、特にハイテク企業です。その総額は6000億円にもなっています。そしてこの税制は特に自動車会社、電機会社、そして製薬会社において活用されています。文字通りわが国の先端企業を支える税制なのです。
研究開発促進税制の経済への波及効果は、非常に高いものがあります。研究開発は減収額の1.7倍の経済効果があると試算されており、これは公共投資などに比べると高い倍率なのです。8年前の古い調査ですが、「同じ額の投資を公共投資に対して行った場合と比べて、政府研究開発投資は25年間の累計で約1.5倍のGDP押し上げ効果がある」との報告もあります。
日本がこうした問題を抱えている一方で、韓国と中国の研究開発費はすごい勢いで増えています。2001年から2005年までの民間研究開発費の増加率(OECDデータで算出)を見ると、韓国は11.6%、中国は25.8%、わが国は2.8%となります。欧米諸国の民間研究開発費の伸びはほぼわが国と変わりませんが、近隣の韓国と中国の研究開発の伸びはすさまじいものがあります。また、民間の研究開発を物価を考慮して(PPP=購買力平価換算)で見てみると、下のグラフのように中国の民間の研究開発費はわが国とそれほど変わらない水準にまで来ていることが分かります。
このように、研究開発促進税制は、先端技術に活路を求めているわが国の企業にとって、非常に重要な税制です。この税制が途切れているという状況には大きな問題があと思いませんか。経済界もこのような状況に陥っていることに気づいていただきたいと思います。私自身も、国会で指摘するとともに、さまざまなメディアでこの問題を訴えていきたいと考えています。

早稲田大学客員教授 中国清華大学顧問 参議院議員
1964年熊本県生まれ。86年東京工業大学卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に行政官として入省。95年マサチューセッツ工科大学経営学大学院に留学、96年には同大学院とハーバード大学行政政治学大学院で修士号を取得。99年東京工業大学で学術博士号(Ph.D)を取得し通商産業省を退く。同年東京大学大学院工学系研究科専任講師に就任、2000年から同総合研究機構助教授。04年民主党参議院選挙に比例区で当選する。05年からは早稲田大学客員教授、中国の清華大学顧問も努める。
公式ブログはhttp://www.fujisue.net