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永田町な事情

永田町な事情

技術で勝って投資で負ける日本

2006 / 11 / 22

私は、わが国の「製造業軽視」ともいえる状況に非常な苛立ちを感じています。特に腹立たしいのが、「わが国の製造業は、欧米企業とだけではなく、韓国や中国といったアジアの製造業と戦っている」ということを、政策立案に携わっている多くの方々がわかっていないということです。

 政府の政策説明資料も見れば、欧米の制度との比較があふれています。ですが、現に多くの製造業が競合している中国やASEAN、韓国といった国の政策については、とても深く調査されているようには思えないのです。かつて、欧米諸国は日本の手本であり、目標であり、ライバルでもありました。現在でも一面ではお手本であり、目標であることは変わりません。けれど、製造業が直面している状況を踏まえるなら、注視すべきライバルは欧米ではなくアジアなのです。かつて、欧米にとって日本がそうであったように。

 孫子は、「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」と言いました。この言葉は、戦略策定の基本でしょう。ここで大事なことは、敵を間違えないこと。敵を取り間違えば、戦略自体が破綻してしまいます。わが国は、「欧米企業に追いつき追い越せ」という、かつてのスローガンが頭から抜け切れずに、「敵を間違えるという罠」にはまっているのではないでしょうか。

 今回、お見せしたいのは、「近年の液晶パネルへの設備投資に関する日韓比較」です(下掲図参照)。日本の代表的なメーカーであるシャープと韓国のサムスン電子を例にとって比較してみると、ここ10年間、シャープはサムスンに後れをとることなく、最新の設備に投資し続けていることがわかります。でも、投資金額はサムスン電子に及びません。2000年度からのデータをみると、シャープが投資額でサムスン電子を凌駕した年はなく、2005年度に至っては、サムスン電子の半分にも達していないのです。

 その結果は、世界シェアに如実に現れています。2005年のデータでは、サムスン電子は世界トップのシェアで約18%。かつては世界市場に君臨したシャープは4位に甘んじ、そのシェアは11%にまで低下してしまいました。言うまでもなく、液晶は日本が長い年月をかけ育て、日本が世界に先駆けて実用化した誇るべき技術です。そのトップ企業であるシャープは、かつてはサムスン電子などアジア企業の先生であり、目標でもありました。その技術力は、今でもトップクラスにあるはずです。それでも負けてしまう。技術ではなく、投資で負けるのです。

 こうした状況を招いてしまった原因は、いくつもあるでしょう。そのうちの一つは、前回指摘した「減価償却税制」だと思っています。そして、もう一つ挙げておきたいのが、「産業金融政策」の問題です。

 わが国では、投資などの金融活動は、依然として銀行融資など「間接金融」(銀行などが資金を集め資金を求めている企業に貸し出す間接的な投資行為)が主流で、株式市場などから直接投資家が資金を調達する方法は、それに比べると多くはありません。つまり、「リスクが高い資金の提供」が積極的に行われていないのです。このような状況で、政策投資銀行も民営化されるとのこと。どうなることやら。

 一方でサムスン電子には、政府系融資によって多くの資金が流入しています。韓国軍部の資金も流れていると聞きました。国を代表する大企業ですから軍との取引があるのは当然といえば当然ですが。

 こうした「国主導の産業支援」は、80年代の日米自動車摩擦、日米半導体摩擦、そして90年代の日米構造協議で骨抜きになってしまいました。米国が「日本の製造業は脅威であり、その競争力の源泉は強力な国の産業支援にある」と見なした結果でしょう。当時の産業政策がそれほど実効的なものであったかどうかについては、異論も多くあります。けれど、実際に日本の製造業は競争力を失い、米国に追いつくどころかアジアにその地位を脅かされる状況に至ったのです。

 こうした状況をも指して「失われた10年」という言葉が使われます。つまり、10年もの長きにわたって、策を講じることを怠ってきたということでしょう。もう、待ったなしの状況にあると私は思います。わが国の産業政策を「アジアの諸国/地域こそがライバルである」という視点から見直し、再構築する必要があるでしょう。

 何も、補助金をばら撒くばかりが産業政策ではありません。税制や金融制度、会社法の改革、産業インフラの整備、人財や教育の問題など、もっと本質的な、国として取り組むべき課題はいくらでもあります。

 その推進に向け、もちろん私もがんばります。でもそれでは足りません。かつて「野武士」と呼ばれた経済産業官僚にも、あのころの気概を思い出して、本当にがんばっていただきたいと思っているのです。



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藤末 健三

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